利用したようで申し訳なかったが、義憤にかられたママや
他の常連様がこの話をよそでしないわけはないというのは
わかっていた。
里親のお客様に同伴に誘われ、問い質され、私は話した。
入社当時から苛められていたこと、水商売は確かに
馬.鹿にされても仕方ないが、それを理由に昼の仕事をおろそかにしたことはないこと。
なのになぜ、ここまで言われなくてはならないのか。
ペットを飼ったことのない人にはわからないかもしれないが、
家庭が破綻していた私にとっては家族以上の
心の支えなのに、と。
お客様はずっとうんうんと聞いてくれた。
当時の私の夜の店での立ち位置は、
親に恵まれず苦学生から頑張って正社員の仕事を得て、
奨学金を返済している子だった。
皆、あしながおじさんの気持ちだったのだと思う。
そして、私は友人以外に昼と夜の両方の愚痴を言わなかった。
初めての弱音といってもいい内容が上記だったことで、
夜の仕事の関係者にはすごいインパクトだったと思う。
私がしたことは、里親のお客様にできるだけS子先輩の情報と性格を詳しく話した。
それだけ。
夜の仕事の関係者は昼の仕事や内容は知っていた。
だから、私の話でどこの会社の誰がS子先輩なのか、
ということはちょっと調べればわかることだった。
逆に、昼の仕事の関係者には夜の仕事内容やそこで知りえた情報は一切漏らしていなかった。S子先輩は
私が場末のスナックで働いていると思っていたようだけど。
実は里親のお客様はS子先輩の彼氏の伯父さんで、親族経営している会社の実質的な権力者。
強面な外見に似合わず猫好きで、でもその素顔は奥様以外は
ご存じないとか(あまりにもギャップがあるのと
ご本人が恥ずかしいので親戚にも内緒にしているそう)
お子さんがいないので、甥であるS子先輩の彼氏が
次期社長候補のひとりだったのだけど、常々結婚しようと
しない甥にきちんと責任をとって早く結婚するようにせっついてた。
そして、S子先輩は本当は結婚願望が強いということも私は気づいていた。
でもね、S子先輩の彼氏、他にあと二人彼女がいるんだよね。すごく彼氏に大事にされているというノロケを
聞いていたから、繁華街で手を恋人繋ぎして別の女と歩いている姿見て驚いたよ。
でも私はS子先輩にそれを教えてあげる義理もないから黙ってたんだ。
だって本人が『浮気するならわからないように
してくれたらいい』って言ってたし、今のセレブな生活を手放したくなくてS子先輩が知らん振りしている
可能性もあったから。どっちにしろ、わざわざ教えてあげなくてもいいか、と。
結果としてS子先輩は彼氏の家から追い出された。
私の話を聞いて、伯父さんが興信所いれたんだそうだ。
そしたら学生時代にひどいいじめをしていて示談
金を払ったことが判明。性根がそのころから全く変わっていない、と判断されたのだそうだ。
S子先輩は高校までは地方にいたから、そのあたりは
きっと調べなかったらわからなかっただろう。
あれだけ大事にしてくれていたはずの彼氏は会社を
継ぐために身辺整理をして、いいところのお嬢様とお見合い
して結婚。この辺りの事情はお金持ち特有の事情が絡んでいるので私も詳しいことはわからない。
私は、夜の仕事でも昼の仕事でも不要なことは言わなかった。
それを周りがいいように解釈して面白いように
ことが進んだ。沈黙していれば、他人は勝手にこの子は
こういう子なんだろうと決め付けて扱ってくるのだと
学んだ。欲しがる情報さえ与えれば、人物像なんて簡単に作れるんだ。
本当はどうかなんて本人以外確かめようがない。
ちなみに喪女の私は夜を寿退社して、お昼の仕事でまじめにおばちゃんやっています。
S子先輩は私への暴.言.が原因で彼氏と別れる羽目になったのを知りません。
別れた後も贅沢が忘れられずカードを使い続け、どうにもならなくなったので
私がお店を紹介して場末のスナックと掛け持ちで働いています。
自分が苛めて馬.鹿にした相手に世話になるなんて、と思うかもしれませんが、
苛めた側は都合よく忘れているものですね。
感謝までされた時には吹き出しそうになりました。
S子先輩に知られるわけにはいかないから墓場だろうけど、
そんな自分で思うほど黒くないよ
むしろ仕事真面目に頑張ってるじゃないの
…とまあ私なんかは思うわけだけど、お店のお客様とかもそう思ってたんだろうね
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