奥さんが机の上のものをなぎ払った。
文房具が散らばり、コーヒーカップが床に落ちた。
奥さんはそのまま手近にあったフォルダを無表情のままT男に向かって投げた。ゴスッと鈍い音がした。
「勘違い?あなたが×××で××××な変○だなんて、本当の浮気相手じゃなかったらわかりっこないでしょうが!」
いかにもキャリア風の落ち着いた奥さんの口から出たとは思えない台詞に私たちは凍りつき、
ついで、なんだか納得した。
あの中傷メールの内容は事実だったんだ…。
それから、私ははっとしてN男を見た。N男は怒りと軽蔑のまなざしで私を見ていた。
「違う、私違う、違います、私じゃありません!」
私は叫び、N男はかすれた声で呟いた。
「なるほどね。とんでもない女だったわけだ」
私はN男に弁解しようと近づき、N男は「触るな」とドナり、奥さんはなぜか大笑いし、
T男はそれを止めようとし、S男はその場でフリーズしていた。
私たちは全員で近くのファミレスに行き、話を整理することにした。
奥さんもどうやら途中で何かがおかしいことに気づいたようで、冷静になってくれた。
奥さんの言い分は以下の通り。
私子を名乗る人からワープロ打ちの手紙が三度にわたって届いた。
内容は職場で夫と浮気しているというもの。
T男についての記述や、デートしたと書いてある日に実際ことごとく帰宅が遅かったことから
その信憑性を判断し、相手の顔をひと目みてから離婚しようと思った。
T男がちかごろ急に「仕事が忙しくなった」と言ってしょっちゅう午前様であること、
「職種の違う奥さんよりも苦労をわかちあえる私子がT男にはふさわしい。
おなかに彼の子どもがいる」という内容に傷つき、キレてしまった。
ちょ、N男……
なんか知らんがN男にすげー嫌悪感抱いてしまったんだが
T男の言い分は以下の通り。
私子とはもちろん、誰とも浮気の事実はない。
遅くなると言った日は本当に仕事をしていた(N男、S男、私がそれぞれスケジュール帳などを見せて
証言)。
自分に関する記述はおそらく過去につきあった女性が情報源だろう。
そんなことは調べようと思えば調べられるものだ。手の込んだ嫌がらせに違いない。
N男の言い分は以下の通り。
実は、T男中傷メールと同時に、自分のところには私子の中傷メールも届いていた。
私子を傷つけたくなくて黙っていた。どうせ誰かのいたずらだろうと思った。
でもほんの少し疑ったことも事実。今日の奥さん突撃でそれが裏付けられたと思った。
私ももちろん「T男とは何もない」と弁解をし、内緒でN男とつきあっていたことをT男に詫びた。
T男は「うん、なんとなくわかってたよ。でも仕事はちゃんとしてくれてたから。
ふたりのことはほんとに頼りにしてるんだ」と言って、ちょっと席を外した。
奥さんがぽつんと「あの人きっと泣いてるんですよ」と言った。
T男が泣くところなんて想像もつかなかったけれど。
S男は血の気の失せた顔で呆然としていた。
こういう修羅場に耐えられる人じゃなくて、ショック状態なんだろうと思っていた。その時には。
犯人わかっちゃったんですけどー・・・
この場にいないM子こえええええええ
その後のT男の行動は素早かった。
「自分に関するきわめてプライベートな事実と、細かい勤務時間を知っている」
という条件から犯人を割り出し、尋問。自白させた。
犯人はM子だった。
M子はS男とつきあっていたのだそうだ。
しかも独身の頃に、やはり結婚前だったT男ともつきあっていたという。
そりゃ、T男も速攻で思い当たっただろう。
S男が修羅場の夜のファミレスで呆然としていたのは、M子犯人説に思い当たったからだったのだ。
以下、T男から聞いた、M子の言い分。
S男は新卒で、非常に優秀だったため今まで挫折を知らず、
「職場でプライドをずたずたにされて」とても傷ついていた。
繊細で頭の良いS男の価値をわかろうともせず、彼を苛めるような指導の指揮をとるT男、
直接彼を貶めるN男、女のくせにS男に指示を出す偉そうな私子、全員が許せなかった。
会社がこのチームを解散させれば、S男は解放される。できればS男以外は失脚すればもっと良い。
自分はすぐに離婚できないので、彼を支えることができるのは職場でだけだと思った。
幸い、T男がばらされたくないであろうことを、自分は知っている。
しかしそれだけでは全員をS男から排除することができない。
コメント
名誉毀損で訴えなよ
英語イニシャル誰が誰だか分からない
偽名でも名前なら分かるんだけど。