嫁は翌日を休んだものの、2日後には出勤してきた。
そして時間を作ってもらえないかというので、仕事の後会うことになった。
嫁はぽつりぽつりと話始めた。
旦那が大好きだったこと。
実際に旦那の行動を見てショックだったこと。
もう関係を続けていくことは無理だと悟ったこと。
離婚を考えているがどうしたらいいのか分からないこと。
俺は知り合いに弁護士がいるから一緒に相談しに行こう持ちかけ、
後日一緒に行くことになった。
知り合いの弁護士から適任の人を紹介してもらい、離婚に向けて動くことになった。
確たる証拠もあるし滞りなく進行したけど、その間の嫁は見ていて可哀想だった。
本当は弁護士を通せば直接話し会う必要はないらしいんだけど、
相手と嫁が直接会って話し合うことを希望した。
嫁は父をなくしていて、兄弟もいない。
母は遠方にいる上にタイミング悪く腰を壊したところで来ることができなかった。
それで俺から申し出て旦那との話し合いには俺が付き添うことになった。
弁護士も立ち会うけど、ひとりで嫁を矢面に立たせるのは我慢ならなかった。
話し合いの席。
嫁はずっとうつむいていた。
旦那は悪びれるでもなく、謝るでもなく、
開き直って弁護士相手に慰謝料について話していた。
俺は旦那をナグってやりたくて仕方なかった。
あるいは弁護士がいなかったら俺はナグっていたんじゃないかと思う。
必タヒで自分の足を掴んでそれを堪えていた。
この男は、この何も悪くない素晴らしい女性に、
タヒぬほど悲しい思いをさせたんだ。
涙を流して俺なんかに助けを求めるくらい苦しい思いをさせたんだ。
なのにその態度はなんだ。
地べたに這いつくばって謝っても、いくら金を積んだって赦されるものじゃない。
本当に反吐が出る思いだった。
その後滞りなく話がまとまり、離婚は成立。
嫁は会社を辞め、地元に帰っていった。
しばらくして嫁自家から大層な荷物が届いた。
中には地元で採れたという魚介がたくさん入っていて、
これまたかなりの金額が詰まった封筒が入っていた。
嫁母と嫁それぞれからの「お世話になりました」という手紙には
「ぜひ一度こちらにもいらっしゃってください」とあった。
本気なのか社交辞令なのか分からないけど、こんなにお金を貰うわけにもいかないので、
これは近いうちに本当に邪魔して返さないとなと思った。
嫁実家近くはちょっとした観光地でもあるので、
連休を使い、旅行を兼ねて嫁実家を尋ねることにした。
電話でその旨を伝えると、駅まで車で迎えに来て案内してくれるということに。
久しぶりに会った嫁はすっきりした顔をしていた。
最後にあった頃の顔にはまだ悲壮感があって、
しばらく嫁の元気な顔は見ていなかったこともあってドキッとした。
やっぱり嫁は素敵な女性だなと再認識した。
嫁さんがいなくなって職場が寂しいよーとか、
この辺で取れる◯◯は美味しいんですよなんて話をしながら観光し、
夕方近くなってから嫁実家にお邪魔した。
「その節は……」「いえいえこちらこそ」から
「晩御飯食べていってください」
ときたので、せっかくなのでとお呼ばれすることに。
嫁からあらかじめこうなることは聞いてたのでホテルは素泊まりだったしね。
お義母さんからは嫁の小さい頃の話とかを聞いて、
俺は会社での有能ぶりなんかを話してなかなか盛り上がった。
俺「ホテルを取ってるのでそろそろお暇します。
それで、今日はこれをお返しするつもりで来たんです」
母「そんな。大変なご迷惑を掛けたのに……。ぜひ受け取ってください」
俺「でも、こんなにたくさんは頂けません」
母「いいえお願いです。どうか受け取ってください」
そういって俺に封筒を無理やり握らせて話すお義母さんの手は震えていて、
目には涙が滲んでいた。
あぁ、このお義母さんは夫をなくしてからひとりで娘を大事に育ててきたんだ。
娘の非常時に駆けつける事が出来ず本当に苦しい思いをしたんだろう。
俺「でしたら、今回の旅費にこれだけ頂きます。たくさん海鮮も頂きましたし。
わたしもこれきりで嫁さんに会えなくなるのは寂しいですし、
今度はそのお金で嫁さんとお義母さんで遊びに来て下さい。」
母「そうですか、分かりました。ありがとうございます。ぜひ伺わせてください。」
ところがこの約束は果たされなかった。
翌年、お義母さんが急病でなくなってしまったからだ。
訃報を受けて俺は再び嫁実家を尋ねることになった。
葬儀自体は簡素なもので、親族がいろいろと動いてくれていた。
嫁は真っ白な顔をして俺に挨拶をした。
何度目だろう嫁のこの顔を見るのは。
もう俺は嫁のこんな顔を見たくない。
俺が嫁を笑顔にしてやりたい。
そんな気持ちで一杯だった。
俺「何かあったらいつでも頼ってきて欲しい。いつでも力になるから」
そうは言ったものの嫁と離れてしまっては何もしてやることが出来ない。
きっと今も辛い思いをしているはずなのに。
自分の家に帰ってからもずっとそんなことを考えていた。
コメント
病気ネタの創作とか不謹慎やぞクソボケ