Z郎は一所懸命なぐさめてくれて
「俺の力が足りなかった、ごめんね。こうなるんだったら地味子ちゃんの気が
済むようにさせてあげれば良かった、そうしていればP太を引き止められてい
たかもしれないのにね。余計な事しちゃったね」
済まなそうに謝ってもくれました。私はZ郎に感謝の気持ちでいっぱいでした。
クリスマスイブ近くになると、私はP太とCB子の事を「もういい」と割りきれるよ
うになりました。Z郎も根気よく励ましてくれて、私は彼に気持ちを向けるように
なっていました。
私のほうから付き合って、と言ってもいいかな。
そう考え出したある日、P太元カノのX美から連絡を貰いました。
「P太とCB子が付き合ってるって本当? 地味子ちゃんどうしちゃったの?」
少々遅まきながら、X美も情報をキャッチしたようでした。
彼女としては、私とP太の付き合い始めにCB子の略奪グセについて警告した
はずなのに、どうしてこうなったのか。真相を聞きたかったらしいです。
学食で会い、顛末を語ると、X美は難しい顔で黙りこくりました。
私は事前の情報を活かせなかった事でX美が気を悪くしたのではと思い詫び
たのですが、彼女は首を振って
「そうじゃなくて。私、CB子とZ郎くんが学食で会ってるとこ、何度か見てるん
だよね……」
意外な事を言い出しました。
「ちらっと見かけただけだから、何話してるのかは判らなかったけど、かなり
仲良さそうだったよ。私CB子が彼女持ち狙いを止めて、Z郎くんとまともに
付き合うようになったのかなって思ってた」
「それいつの話?」
「ちょっと前からつい最近にかけて。5回は見てるよ。だからなんでP太なの
ってびっくりしちゃって」
それ以上会話になりませんでした。X美は再び気難しい顔で沈黙し、私の
方は何とも言えないイヤな気持ちに襲われていました。
まさかZ郎とCB子が結託していたのでは。とっさに思いついたのはそれで
した。X美も同じ疑惑を持ったようで、彼らの口を割らせると息巻いたとたん、
すぐに行動に出ていました。
「三人まとめたところで一気にケリをつけなきゃ。私、P太とCB子を呼び出
すから、地味子ちゃんはZ郎を呼んで」
場所は大学近くのファミレス、時間は部活解散後の午後7時に。私たちは
申し合わせて一端別れました。
P太とCB子の事はX美に任せるしかないと思い、私はZ郎を夕食に誘いま
した。彼は部活終了直後で疲れていても
「地味子ちゃんから誘ってくれるのは初めてだね」
嬉しそうでした。
私がP太の事以外でZ郎に会いたいと言い、食事に誘うのは確かに初めて
だったので、彼はだいじょうぶだと思ったのでしょう。私と手をつなぎたがり
ました。
状況が変わりつつあるのを悟られないように、私はあえて抵抗しませんで
したが内心では悲しくなっていました。
気持ちそのものは本物なのかもしれない。でももしP太との別れがZ郎の
差し金だったら、私はこの人とは絶対無理だと思っていました。
ファミレスにつくと、X美はまだ来ていませんでした。P太とCB子を呼び出
すのに難航しているとは察しがつきます。
X美たちが来るまでは勝手に話を進められないと思い、私はできるだけお
となしく話の聞き役に徹しました。
Z郎は手をつないだ事で気が大きくなったのか、付き合って欲しいと言い
出しました。
「俺は二又はしない。地味子(←突然呼び捨て)を悲しませない」
「ちゃんと守っていくよ」
「正式に彼女になってくれないか」
Z郎はぐいぐい押してきます。
X美から連絡を受ける直前までの私なら二つ返事で飛びついた話だった
と思います。
でもこの時は何とか不自然でなくかわす事ばかりが頭にありました。
Z郎にすれば、この期に及んで煮えきらない私の態度が不思議だった
でしょう。
Z郎の表情がだんだん曇っていき、何か疑うような目つきになりました。
X美を待っているのがバレたのだろうか、と冷や汗をかきましたが
「まさか、まだP太を忘れていないの?」
「あいつに未練があるの?」
彼は違う事を言いました。私はとりあえず沈黙。Z郎は
「P太はCB子に夢中だし、今更戻って来るとは思えないよ。それにもし戻
って来たとしても、地味子ちゃんはそれでいいの?あいつを許せる?」
「P太を許す積りはないし、よりを戻したいとも思ってないの。でもちょっと
待って、考えさせて」
「どうして」
しぶとく食い下がってきます。もうこれ以上はかわしきれないと困り果て
た時
「地味子、遅くなってごめんね」
ようやく頼みのX美が到着しました。
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