彼のタクシーが町の光の中に完全に見えなくなると、私は電信柱の横にこれまで飲んで食べた物を全部吐き出した
お願い!夢から覚めて!
何度も心の中でそう叫んだけど、口の中の酸っぱい胃酸の香りが現実を知らせた
逃げたら絶対許さないという長女の言葉を思い出した
そうだ、私には帰らなければならない
それが私の責任なんだから
タクシーに乗る、降りる、マンションのセキュリティボタンを押す、開く、エレベーターの前まで歩く…
タヒ刑囚が絞首台に乗せられるまでの心境を私は理解することができる
行けば必ずタヒぬと分かってて、あえてそこに行かなければならない心境
ドアノブに手をかける時のあの心境
思い出すだけで冷や汗が流れてくるわ
ギイ・・・ってドアが開いて
玄関に夫と長女と次女の靴があって
ああ、長男はまだ帰ってないのかってそういう記憶だけはやけに鮮明に覚えてる
玄関の照明は消されていて、薄暗くて自分でスイッチ押したら
私の荷物がどっさりまとめられていた
ギョッとした
私、捨てられちゃうんだって思った
何もかも失っちゃうんだって思った
長い間苦労して努力して創り上げた自慢の城が全てぶち壊し
泣きそうだった
でも泣いたら終わり
だって傷つけたのは私なのだから、泣くのはおかしい、私が泣くのは筋が通らない
それぐらいの判断をする冷静さはあった
リビングの証明は点いているのに物音ひとつしない
不気味な静けさだった
怖い、入りたくないよって凄く思った
入れば捨てられちゃう
心は拒否反応を示すけど、何故か足はリビングの入り口に勝手に進んでいく
リビングの入り口に立つ私
黙ってソファーに座る夫が視界に入った
いつもは優しくお帰り!と言ってくれるキ.ス.魔の夫が声一つ発せず腕組みをしながら目を瞑ってた
続いてパソコン机の椅子に座る長女と地べたに腰を降ろした次女が視界に入った
誰も何も言わない
私は静かに夫の前に立つと床に正座し土下座した
「すいません」
それしか言い様がなかった
「ただいまを言わないって事は帰るべき家ではないって自覚はあるみたいだね、ちゃんと荷物はまとめておいてあげたから」
長女が冷たく言った
ビクン!とした
自業自得だけど帰りたくない!って思った
捨てないで!って思った
「事情は概ね聞いたよ、一応君からも説明してくれないか」
いつもキラキラ輝いてる愛情に満ちた夫の瞳は、黒く沼の底の様に濁って見えた
「はい…」
「お母さん、他の人のこと好きになっちゃったの?」
兄妹の中で一番私にベッタリな次女が泣きそうな声で私に言った
私は小さく首を横に振って否定した
「他の人のとこに行っちゃうの?」
次女が続けて言った
私は応えようがなかった
それは夫が裁くべきことだから
「お母さん…」
出て行くのかと思ったのか次女が泣き出した
「へ~好きでもない人とあんな事出来ちゃうんだ?最低だね!」
長女の怒号が響いた
「ごめんなさい」
長女は情に厚く正義感の強い子だから余計に私の事が許せなかったと思う
「M和は黙ってなさい」
夫が長女を嗜めて、私に発言を促した
私はザックリとした事のあらましを夫に伝えた
欠けてる部分を長女が補足したりした
長女は私たちの後にカラオケルームに来て、小窓から私が知らない男の人と居るのを発見したらしい
不穏な空気を察した長女はトイレに行くふりをして何度も偵察に来ていたそうだ
R菜ちゃんは私と面識があるので途中で私の存在に気がついて長女と一緒に心配してくれていたらしい
それでいよいよ私たちが明確な不倫行為をはじめたとき、堪らずドアを叩いたと
最悪だと思った
最悪の母親だと思った
「君のその上司に電話しなさい」
夫はそう言ってさっき長女に手渡した名詞を私に差し出した
「はい、あの、どう言えば…」
「来てもらって話し合うしかないだろう」
「はい」
私は部長に電話した
奥さんが出た
「あの、○○(私の名)です、いろいろご迷惑をおかけして夜分遅くに申し訳ありません」
「ああ、あなた電話よ!」
冷たい奥さんの声質から、既に私達の不貞行為を聞かされてる事が分かった
「ああ、こっちは今話し終わったよ」
部長の声がした
かなり疲れてる様子だった
「あの…、主人が来てもらいなさいって」
「今から?明日じゃ駄目かな」
私はチラと夫の方を見てから
「お願い、今日来て」と小声で頼んだ
「う~ん、こっちも事情がね」
奥さんの心象を気にしている口ぶりだった
「そっちが来れないならこっちが行きますが」
夫が私から受話器をひったくると、上ずった声でそう言った
「ああそうですか、じゃ妻と一緒に明朝会社に出向きますよ、それで良いですか」
「オイ!あんたの都合なんかどうだって良いんだよ!今からそっち行くから待ってろ!」
「ああん?最初からそう言えよ馬.鹿!」
夫はドナりつけるとガチャン!と受話器を置いた
私が始めてみる夫の姿だった
夫はソファにドスン!と腰掛けた
コメント
なんだこれ
ナニコレ珍家族
実話かどうか知らんけどw
話としては中々面白かったと思います
どうみても男性的な文章なのと客観的な視点も男性的なのでほぼフィクションだろうと思うけど大変面白く読ませていただきました。
浮気バレの謝罪方法としては大変バイブル的な作品だと思います。
冗長な小説的な文体だからか、懺悔のような内容のわりに自画自賛てんこ盛りだからか、リアリティーを感じないなぁ。
只の病んでる人やね。スマホ横にして、(、。)見てみ?
多分だが、ライター志望者が誰かの日誌か何かを手に入れて、話を再構成したと思う。
時系列的にやや違和感を感じるし。
そう言う意味では実話を下地にしていると思う。
登場人物の中で間男部長が貧乏くじを引いたかな?
主人公嫁さんは結構なお嬢さん育ちでしょう。
何しろ親が娘一家五人が暮らせる一軒家を、都内に建てようと言い切るのだから。
>>3
ほぼ半分実話。実際には2003年頃の話し。
投稿者が嫁に感情移入した為に、嫁が不利にならない色々とオブラートに包んだ話に、再構成しているんだよ。
きちんと自己分析できているので、本当に反省して再構築に値する女性だ。
上手に子供達を仲間に引きずり込んで、夫を孤立させたクズ女
どこが?
旦那にしたら再構築の為に嫁と子供の関係を修復させる方を優先するだろ。